ルイスタイル
英国銀器の中でも特徴的なデザインの一つに、ルイスタイルと呼ばれているものがあります。
最近ではTVドラマ ダウントンアビーでも番組中のティータイムの場面で度々使用されたデザインでもあり、知名度が急速に広まり人気の定着したデザインです。
英国銀器のデザインの中でもとりわけ豪華でテーブルを華やかに彩ってくれるので、人気の理由も頷けます。 ティーセットそのものを眺めているだけでもワクワクして来る、そこから広がっていく空間が想像出来る、それこそ銀器の枠を超えて装飾品としての魅力を兼ね備えているというか独特の魅力があるデザインだと思うのです。
検索をかけているとアメリカの女優さんが愛用されているお写真だとか出て来ましたので、やはり華やかな場面で好まれて使用されていたような印象を受けますね。昔から、特に社交的な方に愛されたデザインであったのかもしれません。
このルイスタイルのポット、まず最初に作られたのは1860年頃だと思いますが、もう少し後の1880年代当時のMappin&Webb社の広告から、ちょっと面白い事実を発見しましたので、ご紹介させていただきますね。
皆さま、ルイスタイルというと、どんなデザインを思い浮かべられますか?
このようなデザインのティーポットではないでしょうか。
私もこの雰囲気のデザインが、ルイスタイルという認識でした。
画像下の説明文には
Full-size Tea and Coffee Service, Beautifully Chased in the Style of Louis XIV. Complete as Illustrated. Sterling Silver £35 Prince’s Plate £18
と書かれています。
In the style of Louis XVI(ルイ14世スタイル)
なるほど、ルイスタイルの中でも、これはルイ14世スタイルなのですね。
対してこんな広告も見つけました。
Very handsome Louis VI. Presentation Tea-Tray with Pierced Border, Chaced Lattice and Vine Leaves, the Centre very beautifully Hand Engraved, 24 in., £73 10s; 26in, £84. Massive Sterling Silver Service, Chased and Fluted with Mounted Festoons in the style of Louis XVI.
Tea and Coffee Service, complete, £63; 3-pint Kettle and Stand to match, £35. An most Unique Service. Any pieces can be had separately
と書かれています。
こちらは同じルイスタイルでも、Louis XVI(ルイ16世スタイル)になるのですね。
もちろん、この直線的で対照的、クラシカルなデザインを見ると、ネオクラシカル(新古典主義)と表現し、ネオクラシカルと言えばマリーアントワネットとルイ16世の時代のデザインという認識ではありますが、このように広告に実際に書かれていると、なるほど〜 改めて銀器の中のルイスタイルも一つのデザインだけでなかったのだなと再確認です。
さてそれぞれに個性豊かなフランスの王達ですが、その中から特に名の知られる三人の王、ルイ14世、ルイ15世、ルイ16世時代のデザインの特徴を、それぞれの時代に制作された家具(ウォレスコレクション蔵)から見て行きましょう。
ルイ14世(Louis XIV)
在位:1643年5月14日 – 1715年9月1日
父の死後、わずか4才でフランス国王に即位。絶対君主制を確立した。さらにミディ運河とヴェルサイユ宮殿を建設した。治世後半の数々の戦争では苦戦し、晩年には莫大な戦費調達と放漫財政によりフランスは深刻な財政難に陥った。 72年もの在位期間はフランス史上最長であり、18世紀の啓蒙主義思想家ヴォルテールはルイ14世の治世を「大世紀」(グラン・シエクル Grand Siècle)と称えている。(Wikipediaより)
別名「太陽王」とも呼ばれる。
ロンドンにある、元貴族の邸宅が現在美術館として公開されている
ウォレスコレクション(Wallace Collection)にはこの3人の王の時代のフランスの家具が沢山展示されています。
一階と二階に一部屋づつ、ルイ14世の家具を中心に展示しているお部屋があります。 その象徴的なデザインの一つはブールファーニチャー(Boulle furniture)と呼ばれるもの。 ※ブールはルイ14世お抱えとして使えた家具師です。王宮に特別な部屋を割り当てられそこで王様の為の家具を制作していた家具師達は ébéniste (エボニスト・キャビネットメーカー)と呼ばれていました。
ブールファーニチャーのブールというのは製作者のAndre Charles Boulleの事。アラベスク文様に切り取られた真鍮のゴールドカラーとべっ甲の飴色の二色が織りなす模様と、エボニー(黒壇)の漆黒の対比が特徴的な家具を主に作っていた職人です。
右もブール、左もブール。ただ、これらの家具は総称としてブールスタイルの家具として扱われており、これらの中でもAndre Charles Boulle本人によるものはそれほど数多くありません。
このブールの息子さんの弟子であったJean Francis Oeben(ウーベン)がその後かの有名なライティングデスク、Bureu de Loiの制作に着手し、その後マリーアントワネットのお抱え家具師としても知られるJean Henri Riesenerが仕上げたのですから、このブールファミリーの影響力は相当だった事は明らかです。
Wallace Collection一階に展示されている、Bureau de Roi(王様のライティングデスク) ウーベンの死後リーズナーが仕上げた作品です。
内部のどこかに秘密書類を保管する隠し場所があると言われています。
ルイ15世 by Maurice-Quentin de La Tour, 1748
在位:1715年9月1日-1774年5月10日
曾祖父ルイ14世の死によりわずか5歳で即位。
度々の戦争で財政を逼迫させ、7年戦争ではアメリカ大陸の権益を失い、フランスの衰退を招いた。
多くの愛人を持ち私生活は奔放で、最愛王(Bien-Aimé)と呼ばれた。特にポンパドゥール夫人とデュ・バリー夫人はルイ15世の治世に大きな影響を与えている。
美しい肖像画です。愛人でありこの時代のスタイルの象徴とも言えるポンパドゥール夫人と美男美女でとてもお似合いですね。
ウォレスコレクション蔵の、ポンパドゥール夫人の肖像画
ウォレスコレクションにはそれほどルイ15世時代の家具というものが見当たらない気がしますね。家具というよりも、ポンパドゥール夫人が力を入れて発展させたセーブルの磁器だったりその時代の絵画だったりがたくさん展示されています。
家具は、バロックの躍動感があり重厚なデザインを引き継ぎつつも、ロココ時代の特徴である左右非対称さが多少見られるでしょうか。
ロココ時代の装飾でいうと、ドイツの教会などの方がはっきりとわかりやすい表現な気がします。 といっても、OebenやRiesnerなど、キャビネットメーカーは元々ドイツ出身の方も多いのですが。
ウォレスコレクションにあるルイ15世時代の家具では、こちらが面白いと思います。
Antoine-Robert Gaudreaus 作 Jacques Caffieri(ブロンズ)
1739年
前面のデザインは対照的なデザインで、まだバロック的な雰囲気も感じさせますね。ただ重厚な感じのブロンズがとても特徴的です。
サイドは非対称的。ルイ15世の時代というとフレンチロココの時代と言われますが、そのロココなデザインの特徴の一つに「非対称的」というのが挙げられます。このブロンズの製作者のJacques Caffieriの作品はロココの代表的なデザインとされています。
このキャビネットはAntoine-Robert Gaudreausにより1739年に制作されたものですが、ブロンズ部分はCaffieri. 同じ部屋に展示されているシャンデリアも元々はヴェルサイユ宮殿にあったもので、同じくCaffieriによって制作されたものです。
このCommodeですが、1774年に天然痘により64歳で崩御したルイ15世がお亡くなりになる際に寝室にあったのだとか。苦しみの中でこのキャビネットを見たルイ15世
「まるで地獄の業火に焼かれるようだ・・・」
との言葉を残したそうですよ。 確かに、迫力ある、まるで生き物のようなブロンズ。当時のロウソクの灯りで照らし出されると、そのように見えるのかも・・・と妙に納得。 好きなエピソードです。
(それにしてもそのように歴史的な一瞬に居合わせたキャビネットをこうして無料で、まるで手に触れそうな位置から眺められるウォレスコレクション、凄いです)
さてルイ16世です。
ルイ16世
王妃は神聖ローマ皇帝フランツ1世と皇后マリア・テレジアの娘マリー・アントワネット。 在位中の1789年にフランス革命が起こり、1792年に王権が停止し、翌年処刑された。フランス最後の絶対君主にしてフランス最初の立憲君主である。
肖像画は によるもの。
ルイ16世と言えばお妃様のマリーアントワネット。
こちらはウォレスコレクションの中の、ルイ16世時代のものを中心に集めてあるお部屋です。
ウォレスコレクションの中でもひときわ明るい印象。ルイ16世時代のものだけではないと思いますが、マリーアントワネットの家具を中心に構成されています。
マリーアントワネットの為にリーズナーが制作したCommode
すっきりと無駄のない直線的なラインに愛らしく繊細なディテールがマリーアントワネットらしいですね。
このブロンズによるリボンの繊細な表現には驚かされます。 MA(Marie Antoinette)のイニシャル入り。
1780年にリーズナーにより作成され、ヴェルサイユ宮殿のスタディルームに収められたお品のようです。1780年というともうすぐそこに革命の足音が近づいていますね・・・ 製作者のリーズナーも革命により財産を失い、貧困の内に生涯を閉じたそうです。
こちらもディテールの精巧さが素晴らしいです。
やはり先ほどご紹介したティーセットの直線的で洗練されたデザインと共通した物を感じます。
さて銀器のデザインから家具の話がメインになったこの記事ですが、せっかくなのでリーズナーの家具について面白い動画を見つけたので貼っておきますね。 ウォレスコレクションの動画で、上に画像を貼っているマリーアントワネットのキャビネットの修繕に関しての動画です。 こんなに手間をかけて丁寧に修復されているのですね。 元々はもっとカラフルだったそうで、驚きです。